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2023/1/16
メタボロミクスとは、代謝物の総體(メタボローム)を網(wǎng)羅的に解析する研究手法です。細(xì)胞において代謝物は生命活動(dòng)の表現(xiàn)型に関わるため、メタボロミクスはライフサイエンス分野の研究でよく用いられています。それと同時(shí)に、メタボローム解析の手法は、食品や土壌など、様々な分野に応用されています。京都大學(xué)大學(xué)院 農(nóng)學(xué)研究科 及川 彰 教授は、日本におけるメタボロミクスの黎明期から20年にわたり、農(nóng)作物や食品を中心に、メタボロミクスを用いた研究に従事されています。及川教授がここ數(shù)年提唱されている「クッキングメタボロミクス」を中心に、農(nóng)産物、食品、植物などのメタボローム解析について、おうかがいしていきます。
京都大學(xué)大學(xué)院 農(nóng)學(xué)研究科 及川 彰 教授
メタボロミクスとの出會(huì)い
現(xiàn)在、メタボロミクスを用いた研究の第一人者となっている及川教授がメタボロミクスと出會(huì)ったのは2003年頃のことでした。ある研究機(jī)関のプロジェクトに參畫(huà)していた及川教授は、そこで初めてメタボロミクスという言葉を耳にします。當(dāng)時(shí)いわゆるポスドク(博士號(hào)取得後の任期付き研究員)だった及川教授の最初の反応は「メタボロミクス? それ、何ですか?」だったそうです。日本でメタボロミクスを用いた研究が始まったのは2000年代初頭だったため、當(dāng)時(shí)、メタボロミクスという言葉を知っている研究者もごくわずか?!窮T-ICR MS(フーリエ変換イオンサイクロトロン質(zhì)量分析計(jì))、LC/MS(液體クロマトグラフ質(zhì)量分析計(jì))、GC/MS(ガスクロマトグラフ質(zhì)量分析計(jì))を使って、メタボロミクスをやれ」-これが、及川教授に與えられたミッションでした。初めて聞く研究手法。使ったことがないFT-ICR MS。博士論文で図表1個(gè)分しか使ったことがなかった質(zhì)量分析。何もかもが手探り?duì)顟B(tài)のなか、及川教授は、インフォマティクス分野の研究者との共同研究を通して、メタボローム解析ができるソフトウェアを作り上げました。及川教授は「よく分からないメタボロームの世界に投げ込まれたが、やっていくうちにどんなものかが分かってきた気がした」と當(dāng)時(shí)を振り返っています。
2006年からは、山形県鶴岡市にある理化學(xué)研究所植物科學(xué)研究センター(現(xiàn)資源環(huán)境科學(xué)研究センター)でメタボローム研究を続けた及川教授はCE/MS(キャピラリ電気泳動(dòng)質(zhì)量分析計(jì))を使って藻類(lèi)(シャジクモ)のメタボローム解析に従事。同研究センターでは、裝置ごとに研究員が割り當(dāng)てられており、CE/MSを擔(dān)當(dāng)する及川教授は、同じ鶴岡にある慶應(yīng)義塾大學(xué) 先端生命科學(xué)研究所やメタボローム受託解析を行うヒューマン?メタボローム?テクノロジーズ株式會(huì)社 (HMT) からCE/MSの基本を教えてもらうなどして、CE/MSを用いたメタボローム解析に関する知見(jiàn)を蓄積しました。後に、理研の客員研究員を続けながら、同市內(nèi)にある山形大學(xué)農(nóng)學(xué)部に準(zhǔn)教授として赴任した及川教授は、山形県莊內(nèi)地域の特産品であるの莊內(nèi)柿やだだちゃ豆をはじめ、さまざまな農(nóng)作物や食品のメタボローム解析にシフトしてきました。同じ農(nóng)作物でも、産地によって味が異なることがあります。味の違いが生じる要因は、育て方なのか、土壌なのか、肥料の影響なのか、メタボローム解析で把握できるようになってきました。
口にする直前の食品を知りたい
食品のメタボローム解析、いわゆる「フードメタボロミクス」に関心が集まるのはなぜでしょうか。究極的には「おいしいものを食べたい」、「體にいいものを食べたい」という人間の欲求があるからだと言ってもいいでしょう。食品メーカーであれば、「自分たちが開(kāi)発した商品が、他社の商品とどう違うのかを知りたい」「加工する際、どの工程でどの成分が変わるかを網(wǎng)羅的に知りたい」「味や栄養(yǎng)を成分で明示して、付加価値をつけて販売したい」というニーズもあります?!笇?lái)的にはデータをもとに、『この料理にはこの飲み物が合う』『この嗜好の方にはこの料理が良い』など、成分をベースに、嗜好についてもオーダーメイドで料理やドリンクの提案ができるようになるかもしれない」と及川教授は話します。
食品のなかには、果物や生野菜のように、加熱調(diào)理や加工をせずにそのまま口にするものがあります。一方で、私たちが食べるものは、加熱調(diào)理や加工されているものの方が圧倒的に多いでしょう。「調(diào)理したら味が変わる。加熱したら色が変わる。ということは、調(diào)理?加熱の前後で成分も変わっている」(及川教授)。ところが、加熱調(diào)理や加工前後の成分を網(wǎng)羅的に分析して比較するという研究はほとんどありませんでした。そこで、及川教授が提唱しているのが「クッキングメタボロミクス」です。食品の加熱調(diào)理や加工の前後の成分を網(wǎng)羅的に解析して、調(diào)理中の成分変動(dòng)や実際に口にする狀態(tài)での成分を解明しようという研究です?!竿甘巢膜蚴工盲皮狻ⅴ抓恧瘟侠砣摔人厝摔扦先晃钉`う」(及川教授)。つまり、材料となる食材の分析だけでは不十分で、加熱調(diào)理や加工後の食品を比較する必要があります。
一般に、加熱という工程は何かを壊すというイメージを持たれがちですが、山形県莊內(nèi)地域の特産品である莊內(nèi)柿の加熱前後を比較してみると、GABAやシトルリンといった機(jī)能性成分が加熱によって増えることを発見(jiàn)しました。メタボローム解析の手法を食品に応用すると、一部の成分だけでなく、総體的に成分の変化を理解することができます。
カレーのメタボローム解析でクッキングメタボロミクスを究める
メタボローム解析の手法を使って調(diào)理後の食品を知りたい…何をターゲットに研究を行おうかと考えていた際に思い付いたのがカレーでした。野菜に肉、様々なスパイス。カレーには様々な化合物が含まれているであろうことは想像に難くありません。及川教授は「カレーのメタボローム解析ができれば、どんな食品だって解析ができるはず」と考えました。そこで、市販のカレールーに、牛肉、ニンジン、タマネギ、ジャガイモなど、カレールーの箱に書(shū)かれているような一般的な具材とレシピでカレーを作り、分析しました。この研究では、調(diào)理前の具材と調(diào)理後の具材をそれぞれ比較するというアプローチを採(cǎi)用しました。この研究により、具材の外側(cè)のカレーソースから成分が入ってくることや、ニンジンから出た成分が肉に入っていくことなど、味が移っていく様子が見(jiàn)て取れました?!?日目のカレーはおいしい」と言われることがありますが、及川教授の研究によれば、2日目のカレーの香気成分は、できたてよりも減少します?!妇卟膜宋钉先兢撙毪韦恰ⅳ长螤顟B(tài)を、ある人はおいしいと感じるのだろう」と、及川教授は話しています。
一方で、難しさも実感したと言います。たとえば、「できたて」を分析するために、分析ごとにカレーを作る必要があったということ。1回だけ調(diào)理して、複數(shù)のバイアル瓶にサンプルを入れたとします。すぐに分析するバイアルは「できたてのカレー」ですが、最後に分析するものは「1日置いたカレー」になってしまうかもしれません。そのため、毎回できたてのカレーを作って分析をしました?!笇g験者の負(fù)擔(dān)が非常に大きいので、改善の余地があるかもしれない」と及川教授は話しています。
カレーの調(diào)理前後のスパイスの変化を探る
市販のカレールーにはいろいろな成分が入っていますが、どの原料がどのくらい入っているかなど、企業(yè)秘密のために詳細(xì)が分からないこともありました。そこで、単獨(dú)で入手できるスパイスを使って、加熱前後の成分変化をメタボローム解析することにしました。分析したスパイスは、クミン(種子)、コリアンダー(種子)、カルダモン(果実)、カイエンペッパー(果実)、ターメリック(根莖)。スパイスは加熱すると香りが変わることが知られており、各スパイス単體の研究はこれまでにも行われてきました。しかし、私たちが口にする料理では複數(shù)のスパイスが使われることが一般的です。そこで、5種類(lèi)のスパイス単體のほか、複數(shù)のカレーのレシピを參考にして、「標(biāo)準(zhǔn)的」なスパイス配合でミックスしたものを含め、計(jì)6サンプルで研究を進(jìn)めることにしました。
使用した分析裝置は、GC/MS、GC-O(においかぎガスクロマトグラフ)、CE/MS(キャピラリ電気泳動(dòng)質(zhì)量分析裝置)の3種類(lèi)。香気成分の分析には、SPME(固相マイクロ抽出法)で抽出したサンプルをGC/MSで分析するのに加えて、GC-Oで人間の嗅覚を検出器とする実験も行いました?!窯C/MSで成分が検出されたからといって、それが人間にとって良い香りであるかは別の問(wèn)題」(及川教授)だからです。また、アミノ酸などのイオン性化合物の定性?定量分析を行うCE/MSは、主に呈味成分の分析に使用しました。カレーの調(diào)理では具材を煮込む工程があります。また、スパイスは油で炒めて、その香りを引き立たせる工程(テンパリング)があります。そこで、今回のGC/MSおよびGC-Oを用いた分析では、加熱なし、100 ℃ 5分、100 ℃ 20分、180 ℃ 5分 という4つの條件で分析を行っています(CE/MSの分析では、加熱なしと、100 ℃ 5分のみの比較。また加熱はバイアル內(nèi)で行っているため、煮込む、炒めるという工程は経ていません)。
GC-Oの分析では、短時(shí)間で出てくるピークは加熱後に検出量が減り、時(shí)間をかけて出てくるピークは加熱後に検出量が増えるという傾向が見(jiàn)てとれました。加熱で減少した揮発性成分や加熱による分解が起きたと考えられます。加熱で増加した揮発性成分は加熱で揮発性が高まったと考えられます。加熱なしの場(chǎng)合でも、eucalyptol(カルダモンの香気成分。柑橘系の香り)、cuminaldehyde(クミンの主要香気成分で、スパイシーな香り)といった各スパイスの代表的な香りは感じらますが、100℃で5分加熱することで、ar-turmerone (ターメリックの主要香気成分で、いわゆるカレーの香り)が検出されるようになりました。
GC/MSによる分析では300種類(lèi)もの化合物が検出されました。特徴的な香りに注目すると、cuminaldehydeは180 ℃ 5分の場(chǎng)合で34倍に増加したことが分かりました(加熱なしの場(chǎng)合との比較)。ar-Turmeroneは、180 ℃ 5分の加熱で538倍に増加しました。調(diào)理方法やスパイスの配合で結(jié)果が変わってくるかもしれないので一概には言えないものの、及川教授は「一定の條件で加熱前後を比較するという今回の実験の結(jié)果だけを見(jiàn)れば、カレーの香りが好きな人は、クミンやターメリックを油で炒めてから入れると良い」と話しています。一方、eucalyptolは100℃ 5分の加熱で0.3倍、180℃ 5分の加熱で0.4倍に減少しました。
におわなかった成分には意味がないのでしょうか? それは味に関わる成分かもしれません。無(wú)味無(wú)臭でも、機(jī)能性に関わる成分かもしれません。CE/MSでの分析では、合計(jì)188種の化合物を検出しましたが、ほとんどの成分が加熱により減少しました。風(fēng)味の変化と機(jī)能性の変化が示唆されたといいます。
メタボロミクスを支えるアジレントの分析機(jī)器
スパイスメタボロミクスの研究には、Agilent 5977シリーズ GC/MSDと、アジレントのCE/MSシステムが使われています。この研究が行われた當(dāng)時(shí)、山形県鶴岡市にある山形大學(xué) 農(nóng)學(xué)部 教授だった及川先生。慶應(yīng)義塾大學(xué) 先端生命科學(xué)研究所がCE/MSを用いたメタボローム解析系を確立しており、その裝置がアジレント製だったことから、及川先生もアジレントの裝置を使用していました。CE/MSには、「世界的に見(jiàn)るとマイナーな裝置だが、アミノ酸や有機(jī)酸などのイオン性化合物を一斉に分析できるなど、メタボローム解析には有用な裝置」だと感じています。また、アジレントの擔(dān)當(dāng)者とやり取りをするなかで感じていることとして、「各擔(dān)當(dāng)者がそれぞれの分野のプロフェッショナルで知識(shí)も豊富で、しかも親身に相談に乗ってくれるので、話しやすい」「20年前の頃からメタボローム解析に関わっているが、その當(dāng)初から関わっている擔(dān)當(dāng)者が今もアジレントに殘っている」という點(diǎn)を挙げています。
Agilent 5977シリーズ GC/MSD (フロント部の7890B GCに、ゲステル社製のにおいかぎ裝置を接続)
Agilent 7100 CEをベースとした、CE-TOF MSシステム
メタボロミクス?メタボローム解析の今後
この20年の間に、メタボローム解析の手法は進(jìn)化してきましたが、それでも、他のオミックス研究に比べて、メタボロミクスには発展の余地があると、及川教授は考えています。「ソフトウェアやデータベースが充実したり、トリプル四重極質(zhì)量分析計(jì) (MS/MS)や四重極飛行時(shí)間型質(zhì)量分析計(jì) (Q-TOF)などの質(zhì)量分析技術(shù)が使えるようになったり、メタボロミクスは大きく発展した。しかし、サンプルによってどの裝置を使うのが適しているのかなど、まだまだ確立していないことも多く、発展の余地がある」と及川教授と話しています?!纲|(zhì)量分析計(jì)のイオン化法についても、新たな技術(shù)が登場(chǎng)している。アジレントには、ぜひ新たな技術(shù)を採(cǎi)用するなど、チャレンジングな裝置を提供してほしい」と期待を寄せています。
また、及川教授は「メタボロミクスの手法を研究に取り入れる人は増えている」とも話しています。醫(yī)療分野、食品メーカー、化學(xué)メーカーなど、この20年の間にメタボロミクスに関心を持つ層の広がっており、「メタボロミクスとは何か? 何ができるのか?」という段階から、「その成果をどのように活用するか」という段階に移ってきています。
現(xiàn)在、及川教授が研究対象として関心を持っているのが、英語(yǔ)名をJapanese pepperという日本原産のスパイス、山椒です。日本最大の産地が和歌山県で、京料理にも使われる山椒は、関西地方で研究を続ける及川教授にとって研究対象にしやすいスパイスです?!干浇筏涡沥叱煞证扦ⅳ毳单螗伐绁`ル (sanshool) の生合成についてはまだ解明されていないので、これを解明したい」と、及川教授は言います。山椒の粉は、サンショウの熟した実の果皮を乾燥させて砕いたものですが、その乾燥方法は地域や農(nóng)家によってまちまちだと言います。乾燥方法によって味が変わるかなど、調(diào)べればいろいろなことが分かってくるかもしれません。
また、植物としての「サンショウ」も、解明されていないことが多く、興味深いと言います。サンショウはミカン科の柑橘類(lèi)でありながら常緑ではなく葉が落ちます。また、一般に雌雄別株ですが、アサクラサンショウなど、一部の品種は雌雄同株です。また、突然枯死してしまうのにその理由が解明されていないのだそうです。
メタボローム解析の手法を活用することで、こういった謎の解明につながるかもしれません。
メタボローム解析に活用されているAgilent 5977シリーズ GC/MSD(手前) と、Agilent 1260 Infinity LCを含む、アジレントのLCシステム(奧)
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