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2022年10月27日
「微量からの発想が重要」――こうした考えの下、京都薬科大學(xué) 薬學(xué)部 代謝分析學(xué)分野 安井 裕之 教授は、ヒトの體內(nèi)にわずかながら存在している生體金屬に著目し、病気の予防や治療に役立てようと研究を進(jìn)めています。2020年には血液中の亜鉛の濃度とCOVID-19重癥化との関連を國際學(xué)術(shù)雑誌に報告(以下のDOIから論文の閲覧とダウンロードが可能です。doi.org/10.1016/j.ijid.2020.09.008)するなど、體內(nèi)に存在する微量な金屬元素が私たちの健康に深く関わっていることを數(shù)々の研究から明らかにしてきました。
遺伝子を?qū)澫螭趣筏骏播违撺?、タンパク質(zhì)に著目したプロテオミクス、代謝物に焦點を當(dāng)てたメタボロミクスなど、生體中に存在する分子を網(wǎng)羅的に解析するオミクス研究が盛り上がるなか、「総體が微量な成分だからといって、生命にとって重要な生體因子の存在を見逃すわけにはいかない」と、生體金屬に関わる全ての物質(zhì)を扱うメタロミクス研究に力を入れる安井教授。今回は、微量金屬元素と私たちの身體の関わりや、研究で実現(xiàn)したい世界観についてお聞きしました。
微量ながらも健康維持に重要なバイオメタル
ヒトが生きていくためには、三大栄養(yǎng)素として知られるタンパク質(zhì)?脂質(zhì)?糖質(zhì)を多量に摂取するだけでなく、ビタミン類やミネラル(無機元素)といった栄養(yǎng)素も少量ながら摂る必要があります。私たちの健康を保つのに不可欠な無機元素のうち、亜鉛、銅、鉄、クロム、マンガン、モリブデン、コバルトといった金屬元素は、體內(nèi)に微量で存在すれば良いとされています。厚生労働省が公表する「日本人の食事?lián)斎』鶞?zhǔn)(2020年版)」では、鉄、マンガン、亜鉛の推奨摂取量は成人で1日あたりmg単位、それ以外の金屬は1日あたり1 mg以下とされており、カリウムが1日あたり2000-2500 mg、ナトリウムが600 mgであることを考えると、非常に少ないといえます。
しかしながら、これらの「生體微量金屬元素(バイオメタル)」は、恒常性の維持に必要な生體內(nèi)の酸化還元反応や加水分解反応、情報伝達(dá)機構(gòu)や電子伝達(dá)系、それに関與するタンパク質(zhì)、酵素、受容體、ホルモンに必要不可欠なもので、欠乏や過剰摂取により疾患の原因になるともいわれています。
たとえば、鉄が不足すると動悸や息切れといった貧血の癥狀を引き起こすことは、昔からよく知られています。鉄は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという酸素運搬タンパク質(zhì)にもヘムという化學(xué)形態(tài)で結(jié)合している重要な補因子です。ヘモグロビンは、酸素分子と直接結(jié)合する鉄イオンの特異な化學(xué)的性質(zhì)を利用して、肺から取り込まれた酸素を體中へ運んでいます。そのため、タンパク質(zhì)のヘモグロビンが十分に作られていても、鉄が體內(nèi)から不足するだけで酸素を運搬できなくなり、上記のような鉄欠乏性貧血の癥狀につながってしまうのです。
また、鉄欠乏性貧血には、銅や亜鉛も関係しているといわれています。銅タンパク質(zhì)であり鉄イオンの酸化還元反応を制御するセルロプラスミンは、鉄イオンの搬送やヘモグロビンへの供給に関わっているため、たとえ食物中から鉄が十分に供給されていたとしても、銅が不足している場合は、ヘムが結(jié)合したヘモグロビンが十分につくられず貧血癥狀が現(xiàn)れることがあります。さらに、銅イオンと亜鉛イオンの小腸からの吸収は連関しており、亜鉛を過剰摂取するとメタロチオネインという金屬結(jié)合タンパク質(zhì)が小腸で増えすぎてしまい、銅イオンもメタロチオネインに強く結(jié)合するために銅が欠乏してしまい、結(jié)果として鉄欠乏性貧血につながる可能性も指摘されています。
こうした微量金屬の元素間相互作用の仕組みはほんの一例ではありますが、各種バイオメタルが緻密かつ複雑に関連し合うことで、私たちの健康が保たれていることがわかるのではないでしょうか。安井教授は「微量でもこれらの金屬元素が必要量存在していなければ活躍できない生體分子は多くあります。微量だからといって、見過ごしていいわけではありません。バイオメタルには、未知のことがまだまだ多く殘されているのです」と語ります。
京都薬科大學(xué) 薬學(xué)部
分析薬科學(xué)系 代謝分析學(xué)分野
安井 裕之 教授
バイオメタルを網(wǎng)羅的に測定すれば、病気の早期診斷が可能になる?
安井教授は現(xiàn)在、がんや生活習(xí)慣病などの予防と治療に向け、醫(yī)薬品としてのバイオメタルの基礎(chǔ)研究を進(jìn)めるほか、バイオメタルを分析することによる早期疾患診斷に向けた研究にも取り組んでいます。
バイオメタルは、病気になってしまった際に健常時とは異なる組織分布や濃度変化をとることが知られており、亜鉛や銅、鉄、セレンなどの血中濃度は実際に醫(yī)療現(xiàn)場の診斷で用いられることがあります。しかし、安井教授は、現(xiàn)狀について「通常のベースラインと比べて多いか少ないかが見られているだけで、なぜそのバイオメタルが増えているのか、あるいは減っているのか、その詳細(xì)までは直ぐにはわからない」といった課題があるとしたうえで、「バイオメタルを一斉分析できるようにして、経時的変化を追い、全體像を明らかにしていくことが重要」と指摘します。
安井教授によると、バイオメタルは、健康を損ない病気になる前の段階にあたる「未病」の狀態(tài)で異常値を示しはじめるといいます。そこで安井教授は、アジレント?テクノロジー(以下、アジレント)が提供する誘導(dǎo)結(jié)合プラズマ質(zhì)量分析計(ICP-MS)をはじめとする分析機器を駆使して、數(shù)十種類のバイオメタルを一斉に検出し、その変動により疾患の兆候を診斷する方法の検討を進(jìn)めています。この方法が確立すれば、既存の検査では判別が難しいより早期の診斷が可能になるだけでなく、発癥後の治療にも役立てていくことができます。
「病気の発癥前にバイオメタルが異常を示していることがわかった場合、食事等を最新の栄養(yǎng)學(xué)の知見に基づいて工夫すれば予防につなげることができるかもしれません。バイオメタルの破綻によって病気が引き起こされている場合は、分析結(jié)果に伴いバイオメタルを制御するような介入や治療を行うことで、病気の進(jìn)行を遅らせたり、癥狀を抑えたりすることもできるようになるかもしれません。いずれにしても、バイオメタルを網(wǎng)羅的かつ経時的に分析していくことが重要です。食事や醫(yī)薬品の投與後にバイオメタルがどのように変化するかを定量的に見ていけば、醫(yī)薬品に対する生體反応がバイオメタルとどのように連動しているか、醫(yī)薬品の治療効果をより高めるにはバイオメタルの狀態(tài)をどのように調(diào)整しておけばいいかなど、さまざまなことが明らかになると考えています」(安井教授)
研究分野や産學(xué)の垣根を超えて、メタロミクス研究の裾野を広げる
「將來的には、健常-未病-病態(tài)の診斷と予防醫(yī)學(xué)を?qū)g現(xiàn)する『ヒューマンメタロミクス』の確立を目指しています。たとえば、人間ドックにバイオメタルの網(wǎng)羅的分析を加えることができれば、病気の診斷?予防につなげていくことができます。研究活動の成果によって世界平和と人類福祉に貢獻(xiàn)することが、私のモットーです」――安井教授は、自身の研究の展望についてこう語ります。
こうした安井教授のビジョン実現(xiàn)に向けては、バイオメタルの一斉分析法の確立、分析精度の向上などが必要であり、ICP-MSをはじめ多くの分析機器を提供するアジレントも大いに貢獻(xiàn)できるはずです。安井教授もアジレントに対して「分析科學(xué)というサイエンスの行き著く先は、方法論や裝置開発といった『テクノロジー』の領(lǐng)域で、究極的には、オートメーション化によってビギナーでもプロと同じ測定結(jié)果を出せるような世界観が理想です。簡単なトレーニングを受けるだけで萬人が分析できるような、究極のテクノロジーをつくっていただければ」と期待を寄せています。
テクノロジーのさらなる発展は、アジレント1社だけでは実現(xiàn)できません。アカデミアと民間企業(yè)といった垣根、分野間、企業(yè)間の壁を超えて、さまざまなプレイヤーが連攜していくことが重要です。もちろん、安井教授は引き続き、テクノロジーを支えるためのサイエンス領(lǐng)域をこれからも擔(dān)っていきます。
「バイオメタルを扱うメタロミクスの領(lǐng)域では、分析手法や裝置の発展はもちろん、醫(yī)學(xué)や薬學(xué)の知見などといったヒトに関する研究材料が揃いつつあります。近年では、バイオメタルを含めた分子?xùn)佯B(yǎng)學(xué)の知見をスポーツ科學(xué)に活かすニーズも生まれてきており、異分野の人たちが集まってさらにこの領(lǐng)域を盛り上げていくことも重要だと思っています。そのために私は、自身の研究を進(jìn)めるだけでなく、各領(lǐng)域の研究者をはじめとするプレイヤーたちが集えるハブの1つになっていければと考えています」(安井教授)
安井教授が所屬する京都薬科大學(xué)は、明治時代の初期にドイツ人のルドルフ?レーマン博士から西洋醫(yī)學(xué)や薬學(xué)の知識を?qū)Wんだ有志によって設(shè)立された「京都私立獨逸學(xué)?!工A(chǔ)となっています?!笎蹖W(xué)躬行」という建學(xué)の精神は約140年たった現(xiàn)在にも受け継がれており、安井教授によると、卒業(yè)生たちはアカデミアや病院?薬局、製薬企業(yè)、行政だけでなく、さまざまな業(yè)界で學(xué)んだ知を?qū)g踐に結(jié)びつけて活躍しているといいます。世代を超えたつながりも強く、安井教授は、「京都薬科大學(xué)が中心となったバラエティに富んだ人脈があるからこそ、新しいことを開拓していける」と、大學(xué)の環(huán)境も自身の研究の発展を後押ししていることを強調(diào)します。研究領(lǐng)域や業(yè)界を超えたネットワークを活かし、安井教授はこれからもその壯大なビジョンの実現(xiàn)に向けて、挑戦を続けていきます。
関連リンク
京都薬科大學(xué)
https://www.kyoto-phu.ac.jp/
京都薬科大學(xué) 代謝分析學(xué)分野
https://labo.kyoto-phu.ac.jp/taisya/
この記事に掲載された製品および得られた結(jié)果は、掲載日時點において、すべて試験研究用です。診斷目的にご利用いただくことはできません。 |