私たちの體內(nèi)には多くの細(xì)菌が常在しており、その中には「ニキビ菌」とも呼ばれるアクネ菌、腸內(nèi)環(huán)境を整えるとされるビフィズス菌や乳酸菌などが存在しています。とくに腸內(nèi)には1,000種以上にものぼる細(xì)菌が存在すると言われており、ヒトの體を守ったり病気を引き起こしたりと健康に影響を及ぼすことが知られています。これら腸內(nèi)細(xì)菌はヒトとは異なる代謝経路を持ち、腸內(nèi)では膨大な代謝物が産生されています。
腸內(nèi)細(xì)菌の代謝物がどのようにヒトの體に影響しているのか。そもそもどのような代謝物がどのくらい生み出されているのか。代謝物を計(jì)測(cè)することで、腸內(nèi)細(xì)菌によるヒトの體への影響をより詳細(xì)に解明する——こうしたミッションを擔(dān)うのが、JSR株式會(huì)社(以下、JSR)のR&D拠點(diǎn)である「JSR Bioscience and informatics R&D center」（以下、JSR BiRD）です。今回は同所の上田 政宏 氏、加藤 芳規(guī) 氏に、腸內(nèi)細(xì)菌の代謝物を解析するメタボロミクス研究についてお話いただきました。
合成ゴムの開(kāi)発?製造からスタートしたJSRは、乳化重合を基盤(pán)とする高分子技術(shù)に強(qiáng)みを持ち、半導(dǎo)體材料やディスプレイ材料、合成樹(shù)脂の領(lǐng)域で事業(yè)を展開(kāi)してきました。近年では、ライフサイエンス領(lǐng)域にも注力しており、2017年には産學(xué)連攜によるシーズ創(chuàng)出を目的に「JSR?慶應(yīng)義塾大學(xué) 醫(yī)學(xué) 化學(xué)イノベーションセンター」を設(shè)置。幹細(xì)胞生物學(xué)や微生物叢、個(gè)別化醫(yī)療を軸に研究開(kāi)発を展開(kāi)しています。そして、JSRグループの次世代のライフサイエンス研究を擔(dān)う新たな研究所として2021年7月、神奈川県川崎市のキングスカイフロントに開(kāi)設(shè)されたのがJSR BiRDです。
JSR BiRDの役割は大きく分けて3つあります。1つ目は、細(xì)菌叢を核にしたライフサイエンス分野の研究と社會(huì)実裝。2つ目は、バイオ?インフォマティクスやマテリアルズ?インフォマティクスをはじめとするインフォマティクス研究の推進(jìn)。3つ目は、アカデミアやスタートアップ企業(yè)とのコラボレーションによるオープンイノベーションの促進(jìn)です。開(kāi)放感あふれる施設(shè)で、各分野の研究者や企業(yè)が自由闊達(dá)に交流して意見(jiàn)交換しながら、イノベーティブな研究開(kāi)発に取り組んでいます。
上田氏と加藤氏が所屬するチームでは、質(zhì)量分析計(jì)を用いて腸內(nèi)細(xì)菌をはじめとする常在菌の代謝物分析を擔(dān)當(dāng)しています。常在菌は、糖、アミノ酸、ペプチド、有機(jī)酸、脂質(zhì)などさまざまな物質(zhì)を代謝し、産生していますが、これらの代謝物を網(wǎng)羅的に解析してヒトの體への影響を明らかにし、生菌製剤のバイオプロセス向上につなげるという目的で研究を進(jìn)めています。
サンプル測(cè)定で直面した課題に対し、アジレントとの共同検討をスタート
質(zhì)量分析計(jì)を用いたメタボローム解析では、対象とする物質(zhì)の性質(zhì)にあわせてガスクロマトグラフ質(zhì)量分析計(jì)（GC/MS）や高速液體クロマトグラフ質(zhì)量分析計(jì)（LC/MS）などを用いて、サンプルに含まれる代謝物分子を網(wǎng)羅的に分析していきます。
まず取り組んだのは、トリプル四重極GC/MSを用いた水溶性サンプルの測(cè)定方法の検討です。GC/MSでは、前処理法の1つとして対象物質(zhì)の極性基をシリル化やアシル化するなどして、揮発性や熱安定性に富んだ誘導(dǎo)體に変える誘導(dǎo)體化法を用いるケースがあります。ただ、當(dāng)初想定していた誘導(dǎo)體化のメソッドには大きな課題がありました。サンプルを減圧乾固してから誘導(dǎo)體化するため揮発性の高い化合物のロスが生じてしまい、さらに、サンプルの數(shù)が膨大で誘導(dǎo)體化からGC/MSで測(cè)定するまでに時(shí)間を要する場(chǎng)合には時(shí)間が経つにつれて誘導(dǎo)體化した物質(zhì)が分解してしまうことで、GC/MSでの測(cè)定のタイミングによってデータにばらつきが生じてしまっていたのです。
そこで上田氏らは、GC/MSに強(qiáng)みを持つアジレントとの共同検討をスタートすることにしました。さらに、特許技術(shù)である固相誘導(dǎo)體化法とオンライン全自動(dòng)処理技術(shù)を持つ株式會(huì)社アイスティサイエンスに注目します。この技術(shù)で、誘導(dǎo)體化からGC/MSで測(cè)定するまでの経過(guò)時(shí)間を均一にできます。Agilent 7000Dトリプル四重極GC/MSにアイスティサイエンスのオンライン固相抽出裝置を組み合わせて誘導(dǎo)體化條件を検討することで乾固ロスを回避しながら前処理時(shí)間を均一にすることができました。一度にサンプルを誘導(dǎo)體化してから測(cè)定していた従來(lái)の方法と比べて、前処理から測(cè)定までを一気通貫かつ迅速に行えるようになりました。
Agilent 7000Dトリプル四重極GC/MS
「人の手による作業(yè)も少なくなるため、スループットが向上しました。アジレントからGC/MS裝置の仕様や利用方法を教えていただいたことで迅速に実験系の立ち上げができたので、まさにJSR BiRDの思想であるオープンイノベーションの取り組みとも言えます」(上田氏)
JSR株式會(huì)社
JSR Bioscience and informatics R&D center（JSR BiRD） 博士（工學(xué)） 上田 政宏 氏
MRMデータベースの公開(kāi)により、メタボロミクス研究の発展に貢獻(xiàn)
トリプル四重極GC/MSを用いた定量分析では、特定質(zhì)量をもつイオンを通過(guò)させる質(zhì)量フィルターと、ガス衝突誘起開(kāi)裂によって生じる斷片を通過(guò)させる質(zhì)量フィルターの組み合わせを設(shè)定します。この2つの質(zhì)量フィルターを通過(guò)できるイオンを検出することで、対象となる成分を特異的に定量することが可能となります。これを「Multiple Reaction Monitoring(MRM:多重反応モニタリング)」と呼びます。
今回、上田氏らが対象としていたのは、200以上の化合物です。対象物質(zhì)ごとにMRMの測(cè)定條件を決める必要があり、共同検討ではこのMRMデータベースの作成に取り組みました。データベースとして具體的にどのような項(xiàng)目が必要かというところから、取得したデータの妥當(dāng)性の確認(rèn)、公開(kāi)データベースの形式の調(diào)整まで、1か月に1回程度のミーティングを行いながら約半年間かけて進(jìn)めていきました。また、両社とも互いに未経験の物質(zhì)も取り扱うということもあり、実務(wù)者同士によるこまめな打ち合わせも繰り返したと言います。
加藤氏は、「前処理裝置とGC/MSとの調(diào)整が難しく、どこでなぜうまくいかないのかわからない狀態(tài)になってしまうこともありましたが、アジレントの擔(dān)當(dāng)者の方には親身になって対応していただきました。トラブルが起こった際にも、考えられる原因を複數(shù)あげていただくなどサポートしてもらえたので、スムーズに進(jìn)めていくことができました」と振り返ります。
JSR株式會(huì)社
JSR Bioscience and informatics R&D center（JSR BiRD）
加藤 芳規(guī) 氏
MRMデータベースは現(xiàn)在、アジレントのWebサイトで公開(kāi)されています。データベースの化合物數(shù)は186。腸內(nèi)細(xì)菌以外の領(lǐng)域でも、水溶性代謝物を扱うメタボロミクス研究で広く活用されることが期待されます。
參考
GC/MS データベースダウンロードサイト
https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1004696
健康に有用な代謝物を明らかにするために
今回の共同検討では、固相誘導(dǎo)體裝置との相性の関係で適用できなかった化合物も多くあり、難しい場(chǎng)合は別の方法を検討していくかたちになります。また、脂溶性代謝物に関してはLC/MSを利用して解析を進(jìn)めていきます。ただ、腸內(nèi)細(xì)菌による水溶性代謝物は日々新たに発見(jiàn)されています。上田氏は「今回の共同検討で培ったノウハウをもとに、対象となる物質(zhì)を増やして獨(dú)自性のあるデータベースを作成していきたい。そして、人々の健康に有用な代謝物を明らかにして、その機(jī)能性を評(píng)価していきたいです」と意気込みます。
1000種以上存在する腸內(nèi)細(xì)菌から生み出される代謝物は、數(shù)え切れないほどあると考えられます。この膨大な代謝物を解析しようというJSR BiRDのミッションは、途方もなく、かつ非常にチャレンジングです。腸內(nèi)細(xì)菌の領(lǐng)域でイノベーションが創(chuàng)出される日を心待ちに、今後もJSR BiRDの取り組みには注目したいところです。
関連リンク
JSR株式會(huì)社
https://www.jsr.co.jp/
JSR株式會(huì)社＞研究開(kāi)発＞研究開(kāi)発體制
https://www.jsr.co.jp/rd/org.html
キングスカイフロント
https://www.king-skyfront.jp/
DE14846903
